針灸治療とインポテンツ
年令三十一歳の男性。身長一m七五㎝、体重六〇㎏。痩型で精悍な感じの男前。
「明日、女に会うので元気にしてもらいたいのですが」という。
──というと、インポテンツなんですか。
「いや違います。〝とばっ口.までゆくと萎んじゃうんです」というので
──それインポテンツてんですよ、というと、
「そうですか」と戸惑った答えである。
何とも締らない話である。この若さでと思いながら話を聞くと、仕事は、長距離トラックの運転手で、東京から仙台、青森まで同僚と交替で昼夜の別のない運転勤務とのこと。マージャンのお付合いも嫌いではないので適当にやってきたし、以前はひと眠りすると疲れも取れて何のこともなかったが、最近は疲れが残るようで婚約者とのデートにも不覚をみるようになった。
取穴は、肩井と膏肓。身柱と神道、霊台。腎兪、命門、と気海と足三里。大赫と曲泉。壮数は膏肓だけ二〇壮以上。
一週間して訪れたこの患者は、その日は死んだようにぐっすり眠りましたというので肝腎の方の首尾を聞くと「何とか」と笑いながら「お灸は効きますね」という。何とも嬉しいことをいってくれる。
インポテンツがどんなものか、陽不起は〝とぱっ口で萎む. 「へのこたたず」。
インポテンツの証に排尿がある。腎と膀胱は陰陽、表裏をなすもので前立腺肥大の患者などは腎気不足のいい例だと思っている。朝だちもなく、排尿ちょろちょろでは、どこからみても「甚兵衛がへのこ……」といわれても仕方のないことで、精気が不足すれば三十才になったばかりの若者もこの態たらくである。
鍼灸では、精気不足は文字通りに肝と腎が多用される。私もご多分に洩れず主に肝.腎経からの引用が多い。個体差による選穴は当然で私には類経のいう腎兪.命門とのセットではないが、曲泉や然谷など不可欠の要穴のように効果があるようだ。施術者はそれぞれに各自の選穴を述べられているが大方は肝.腎経からの要穴を多く使用されているようである。
インポテンツをいってくる患者には、時には下腹部の響きで患者に心理的効果を探らないでもないが、先づ、肩背部のこりの除去が第一であると思っている。
それからインポテンツは、少なからずメンタルな面の比重が大きい。この患者の場合も体力の疲労が精神の面にも大きく影響して自律神経のアンバランスを起したものと考えさせられる。取穴の、身柱、神道、霊台の取穴はそれである。
これらは、自律神経失調のための常用穴で、主に肩甲間部の督脉の経穴に取る。慢性病といわれる患者は自律神経の失調を起すといわれるように督脉の肩背部穴には必ずといっていい経穴反応があることを教えられてきたし、経験している。即ち、身柱、神道、霊台、至陽や筋縮などの穴で、これらの中から圧痛反応をみて選穴する。椎間に圧痛反応のないときはその椎骨の骨際に現れることがあり、これをとらえて施灸する。インポテンツに限らず、これら督脉上部穴は、いらいらを鎮静させる治療穴ということからみても病み人の必需穴と思っている。